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大阪家庭裁判所 昭和46年(少)1672号 決定

少年 A(昭○・○・○生)

主文

少年を教護院(国立a学院)に送致する。

少年に対し、通算三〇〇日以内を限度として、逃走防止設備のある国立a学院内の強制措置寮に収容する旨の強制的措置をとることができる。

理由

本件送致の要旨

大阪府○○児童相談所長作成の特別送致書ならびに担当児童福祉司Bの当審判廷における陳述を総合すると、本件送致の要旨は、「少年は、怠学・無断外泊・粗暴行動・家財持出し・窃盗(触法)などの問題行動をくりかえしていたため、昭和四五年六月五日、大阪府○○児童相談所長の措置により教護院(b学院)に入所するところとなつたものであるが、その入所後においても別紙(1)(2)に記載の如き学院からの無断外出・同未遂や無断外出中の窃取(触法)行為を反復し、最近においては学院への帰院を拒否し窃取した女性用「かつら」で変装のうえ逃走を企てるなど非行傾向の深化が著しく、保護者(実母・祖父母)や開放施設しか使用できない教護院(b学院)の手によつて少年を処遇していくことは極めて困難な状況に立ち至つているので、現時点においてその期間を一二ないし一八か月以内と限つたうえ少年を逃走防止設備のある国立a学院(教護院)内の強制措置寮に収容するというのでなければ、その健全な保護・育成を期し難いというべく、ここに児童福祉法二七条一項四号(少年法六条一項)による触法(窃盗)保護事件の通常送致とともに児童福祉法二七条の二(少年法六条三項)による強制措置許可申請事件の特別送致を行う」というのである。

当裁判所の判断

(非行事実・適条)

少年は、満一四歳に満たないものであるが、別紙(1)に記載の如く、単独にてあるいは他人と共謀して、合計二一件に及ぶ自転車盗・干物盗・居あき・あきすなどの窃取(触法)行為を行なつたものである。

以上の各事実は、いずれも刑法二三五条(共謀による分については、なお同法六〇条)に触れるものである(少年法三条一項二号)。

なお、本件送致事実中別紙(2)に記載の事実については、これを認めるに足る証拠がない(少年も否認している)ので、当裁判所としては「非行なし」として処理する。

(処分の理由)

一  少年は、小学五年のころより激しくなつてきた怠学・同級生や家族員に対する粗暴行動・異性に対するいたずら、家庭の金銭持出し・窃盗(触法)などの問題行動が中学に進んで後も改まらなかつたことで、昭和四五年六月五日に至り、大阪府○○児童相談所長の措置により教護院(b学院)に入所するところとなつたものであるが、その入所後においても依然として別紙(1)に記載の如き一四回に及ぶ学院からの無断外出・同未遂や二一件に及ぶ無断外出中の窃取(触法)行為を反復している状況であつて、このような経緯に鑑みるとき、その盗癖など少年の非行傾向はいまや放置できない段階にまで立ち至つているものと認めなければならない。

二  少年は、児童福祉機関による上述の教護院(b学院)入所措置に対して強い不満を抱いており、そのためもあつてか、入所後一か月足らずの時期よりはじまつた学院からの無断外出や窃取(触法)行為は次第に激しさを増していまなお収まつていない実情であり、最近においては、無断外出期間が長期化してきているばかりか、窃取した女性用「かつら」を用いて変装するなどの逃走手段も講じており、さらには発見・保護にあたつた司法警察職員に対して「無断外出をしない旨の約束などできない」と供述してみたり、当審判廷においても「一〇〇パーセントの成功率で逃走しようと思つていた」と供述しているなど、教護院(b学院)への帰院を積極的に拒否する態度に出ているのではあるが、後述の如き人格形成面の現状に鑑みるときは、反省・自覚に欠けるというよりも、自己の現況や問題点に対する認識もなしえないままに、当惑とあせりで精神的な混乱状態に陥つているというのが実情ではないかと思料される。

三  少年は、潜在的には良域の知能を有しているものの、学校や家庭での教育不全のゆえにか、これを勉強や日常行動の場面にまで結びつける習慣づけがなされておらず、幼稚で空想的な思考に終始している、心理的離乳が不完全で子供つぽい依存的傾向が顕著である、不満足感を内蔵していて情緒が不安定である、わがままで短気である、素直さや協調性に欠け社会性が未熟である、規範意識が身についていないなど、人格形成面の全般にわたる遅滞(未分化で未熟な点)が目立つている現況にあるものと認められる(なお、実母は精神分裂病<実父>の遺伝を案じている模様であるが、鑑別結果によると少年の精神病を疑わせる徴候はないとされている)。

四  実父の精神分裂病という事情のためか、少年の満一歳時である昭和三四年二月に実父母が離婚し(少年はこの事実を知らされていない。「実父は死亡した」と聞かされている)、以来実母(三九歳、七年前から会社事務員として就労)や祖父母(母方、祖父七二歳、祖母五九歳、いずれも無職)が少年の養育に携わつてきているのであるが、少年に対する関心が強かつたことに加えて父不在の不憫さも手伝つてか無意識のうちに過保護に陥つて少年の問題点や成長過程に応じた適切な対処という点に欠けてきたきらいの強い実母や祖父母の養育態度は、かえつて少年の人格形成を遅滞せしめ上述の如き非行傾向を助長する一因とさえなつてきた観があり、ことここに至つて相次ぐ少年の問題行動にとまどい適切な収容教育にゆだねるしか仕方がないとの意向をもらしている実母や祖父母の現況をも考えあわせるとき、家庭の保護能力は極めて脆弱な実情にあるものと認めなければならない。

親族・知人・学校関係者などについてみるも、近隣に居住してはいても少年を敬遠している実情にある叔父(実母の弟)夫婦や学校での指導・監督に消極的態度をとつてきた中学校の関係者がいるだけであつて、少年の健全な保護・育成にとつて利用しうるだけの社会的資源はどこにも見当らない。

五  以上、少年の非行傾向・保護歴・現在の生活態度・人格形成面の現状・環境など諸般の事情を総合してみるとき、少年に対しては、早急に非開放的な収容教育を確保してまず無断外出や窃取(触法)行為といつた如き自滅的行動の再発を防止しその心情の安定をはかつていくというのでなければ、人格形成面の遅滞解消・規範意識や社会性の涵養・健全な生活態度の発見と習得など積極的な矯正教育はおぼつかないことになつてしまうというべく、現時点においては、少年の健全な保護・育成を期するため、少年を教護院にて生活せしめるとともにその期間を通算三〇〇日以内と限定したうえで逃走防止設備のある強制措置寮に収容する旨の強制的措置をとることもやむをえないことと思料される(満一三歳という少年に対しては、少年院法二条により、少年院送致ができない)。

六  ところで、児童福祉機関(大阪府○○児童相談所長)によるこれまでの教護院入所措置は少年に対して強い不満を抱かせてきている(前述)ほか少年が本件で大阪少年鑑別所に入所するとともに「措置停止」とされるに至つている実情にあることとて、前述の如き少年の問題点をも考えあわせてみるとき、今後少年を教護院に収容していくことについては、ここで新たに少年法二四条一項二号に基づく家庭裁判所の保護処分としての教護院送致決定を実現せしめるのが相当であると思料される。

七  なお、b学院の強制措置寮が諸般の事情よりして現に使用不能の実情にあること、b学院・大阪府○○児童相談所長からの要請に基づき国立a学院(教護院)において少年を同学院内の強制措置寮に収容することを了承済の実情にあることなどの事情に鑑みれば、少年を収容すべき教護院としてはこれを国立a学院と定め同学院において前述の如き強制的措置をとるべき旨指示するのが相当であると思料される。

八  最後に、少年法一八条二項によれば「少年法六条三項(児童福祉法二七条の二)による特別送致を受けた家庭裁判所は強制的措置を必要と判断するときは児童福祉機関への事件送致決定を行うこと」とされているのではあるが、このような児童福祉機関への事件送致決定が要求されるのは、主として、児童福祉機関側において当該強制的措置を実施する前提となるべき児童福祉法上の措置(例えば教護院への入所措置など同法二七条一項三号の措置、停止中の措置につき停止を解く措置など)をとつたりする機会を確保していく必要があることに基づくもの(手続的な要請)と解されるが、果してそうであるとするならば、触法保護事件の通常送致とともに強制的措置許可申請事件の特別送致を受けた家庭裁判所が自らの保護処分として少年に対する教護院送致決定を行うと同時に少年を教護院内の強制措置寮に収容すべきことを内容とする強制的措置をとりうる旨の決定を行おうとする本件の如き場合にあつては、児童福祉機関側において当該強制的措置を実施する前提として改めて教護院入所措置など児童福祉法上の措置をとつたりする必要もないこととて、児童福祉機関への事件送致決定は必ずしもこれを要しないものと解される(なお、少年法一八条二項の規定によるも「事件送致ができる」とされていて「事件送致をしなければならない」とはされていない点にも留意してみるべきかと思料される)。

九  よつて、少年法二四条一項二号、一八条二項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原宏武)

別紙(1)

編略 (注・無断外出一四件ならびに窃盗(触法)二一件の行為一覧表)

別紙(2)

本件送致事実中当裁判所が「非行なし」として処理する事実-窃取(触法)行為

少年は、満一四歳に満たないものであるが、C・D(いずれも満一四歳未満)と共謀のうえ、昭和四五年六月二四日午後三時ごろ(b学院からの無断外出中)、堺市中○町×丁×番地先路上において、同所に駐車中の乗用車内より現金二六、〇〇〇円(所有者不詳)を窃取したものである(車上ねらい)。

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